悪徳なんてこわくない　R・A・ハインライン

実はここのところハインラインを読み返す毎日でして、本当なら「落日の彼方に向けて」について書きたかった。でも、あれについて書くには「愛に時間を」についても書かねばならず、あの膨大な小説の事について書く自信が無い。前に少し紹介した事はあるが、あれでは不十分だ。と言う事で本書の紹介です。

注：出来ればネタバレにならない程度に書きます、が。注意。
非常にお金持ちのヨハン・セバスチャン・バッハ・スミスは 非情な高齢にもかかわらず、お金持ちで生命維持装置に繋がれ、死ぬ事さえ出来ない状態でした。友人で会社の重役で弁護士のジェイクの力を得て。とんでもない事を選択肢を実行に移す事になります。

それは体は老衰で死にかけているが、まだ元気な脳を若い体を買い取ってその体に移植すると言う物でした。

近い未来のこの舞台に於いても、人体におけるこの種の手術は成功例が無く。かろうじてチンパンジーの成功例があるだけだった。

彼はその医者をオーストラリアから呼び寄せて、手術をしてもらうことになります。

手術後相当の時間が経った彼はある日目覚めます、周囲の心配をよそに日増しに回復する彼。手術は成功したのです。

けれど、ある日彼は妙な事に気付ました、自分の顔を見せてもらえないのです、実は彼は女性の体に移植されていたのでした。

その日から彼の、いや彼女の新しい人生の幕開けとなりました。

男性が女性として生きる事の面白さ、不安。女性らしく生きるとは？、と言う事に真っ向から挑んだ話題作と言っても良いでしょう（当時）、宇宙の戦士が、戦争と暴力と言う物をある種肯定的に書いて物議を醸し出したとすれば、こちらは、愛とセックス、とを正面から書いてやはり物議を醸し出したらしいですね。

アメリカと言う国は、自由奔放なところもありますが、保守的な部分もとても残っており、そういう人たちの癇に触ったのでしょう。

確かに性描写は結構出てきますね、でもいやらしく感じる事はなく、ポルノティックでさえない、と私は思います。男性である私には、女性的な性の考え、と言うのがとても面白く感じられました。ただし、ハインライン流ですけれどね。

話によると、この物語の最後で生まれた赤ん坊が、「月は無慈悲な夜の女王」で活躍するとかしないとか、そして物語は「愛に時間を」「落日の彼方に向けて」へと続いて行くんだと言う話もあるようですね。これはいよいよ「月は無慈悲な夜の女王」も読まねばならないようです。

ハインラインはすでに没していますけれど、幸運な事に、と言っても良いでしょう、私はまだ入手はしているけれど読んでいない彼の長編小説がまだあるのです。「ヨブ」、「ウロボロスサークル」等ですね。

先日 A・C・クラーク氏も亡くなってしまいましたが、ハインライン、アシモフを指して SF　３大巨頭と言うんだと言う話もあって、近代 SF へと繋がる系譜を彼らがつづったと言う事は間違っていないような気がします。

彼らのような天才たちの新作がもう読めないのは残念ですが、まだ読まずにとってある本もありますし、入手していない本もありますから、まだまだ楽しみは続きそうです。

新しい作者の台頭にも期待したいところですけどね、まあ、私がまだ読んでいないだけかも知れませんが。

いずれ、「愛に時間を」関連についてはまた別の余裕のある時にでも書きたいと思います。